2015年に公開された「あの日のように抱きしめて」は、ドイツのドラマ映画で、原作は「帰らざる肉体」という小説です。今回3月5日深夜、テレビで放映されましたね。気になる内容はどんなものかまとめてみました。
映画「あの日のように抱きしめて」のあらすじ
ただ知りたかった。あの時、夫は私を愛していたのか。それとも、ナチスに寝返り裏切ったのかを───
1945年6月敗戦直後のベルリンに、頬骨や尾骨の粉砕といった顔に深い傷を負ったユダヤ人の元歌手・ネリーがアウシュビッツ強制収容所から奇跡的に生還します。友人レネの助けで顔面修復手術を受けますが、通常逃げるために別の顔を望む人が多い中、彼女はもとの顔を希望。愛する夫ジョニーに会いに行きます。
ですが妻は死んだものと固く信じている夫は、彼女を妻によく似ている別人として認識し、そのうえ妻の一族の遺産を手に入れるために、妻のふりをするよう要求します。ひどく傷つくネリーですが夫を愛しているためその提案を受け入れてしまいます。それでも彼と過ごす日々は彼女に癒やしを与えるのでした。
一方、夫が自身のためにネリーをナチスに引き渡し、離婚までしていたことを知るレネは、ジョニーと縁を切るようネリーに伝えますが、夫を信じたいネリーは聞き入れません。レネもまた深くネリーを愛しており、ネリーを引き留められないと悟ったレネは自死することで彼女に離婚の証明書という夫の裏切りを遺書とともに残します。
レネの死は、盲目的に求めていた夫の愛からネリーを目覚めさせます。
そして昔のネリーを知る友人らが集まる場で、ジョニーに思い出の曲「スピーク・ロウ」を伴奏させ、歌声と囚人場号で自分がネリー本人であることを夫に悟らせ、その場を後にするのでした。
映画「あの日のように抱きしめて」の作品内容
キャスト
ネリー/ニーナ・ホス(Nina Hoss)・・・元歌手のユダヤ人女性。
ジョニー/ロナルト・ツェアフェルト(Ronald Zehrfeld)・・・ネリーの夫でピアニスト
レネ/ニーナ・クンツェンドルフ(Nina Kunzendorf)・・・ネリーの親友の弁護士
映画「あの日のように抱きしめて」の原作
ユベール・モンテイエ著「帰らざる肉体」。この小説は他にも「死刑台への招待」という1965年のイギリス映画の原作にもなっています。
ユベール・モンテイエ氏はフランスの小説家で、主に推理・歴史小説を書かれています。有名な作品は他にも日本でビデオにもなった「かまきり」(日本ビデオ名では、ミステリーかまきり)、ドラマ・映画化された「殺しは時間をかけて」(日本では、妻よ睡れ)等があり、ミステリー愛好家から高い評価を受けていた作家です。歴史学の大学講師なので、歴史小説作家としても活躍され、歴史研究家にも高く評価されています。
ちなみに日本でドラマ化した「妻よ睡(ねむ)れ」は1982年に放送されたのですが、田村正和さん、大場久美子さん、石橋蓮司さんなどの俳優さんが出演されたようです。
映画「あの日のように抱きしめて」のメインテーマ曲
ネリーがお店に入ったときに流れ「この曲が好きなの」と話した名曲スピーク・ロウ。
終盤では、ネリーが自分の正体を夫に気づかせるために、敢えてリクエストして歌った曲です。ネリーは元歌手なので、現役時代はよく歌ったのでしょう。この曲の使い方が素晴らしいです。記事後半のネタバレにて説明しますね。
この「スピーク・ロウ」という曲ですが、クルト・ヴァイルというユダヤ人作曲家の曲です。彼もまたユダヤ人であったため、ナチス政権に危険視されパリ、そしてアメリカに亡命することになります。この映画と同じくナチス政権の被害者です。
スピーク・ロウはジャズの定番の曲で、ジャズ好きなら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。この曲が映画にぴったりで、優しく切ないメロディーが一層映画の魅力を引き立てます。
日本タイトルとは違う原題「Phoenix」
日本語タイトルは「あの日のように抱きしめて」ですが、原題は「Phoenix」=不死鳥です。
夫ジョニーと再会したのもPhoenixというバーでした。
このタイトルはアウシュビッツから生還したこと、顔と今までの人生を失ってでも尚生き続けたこと、そして新しい人生をスタートさせたことを表しているのだと思います。
映画「あの日のように抱きしめて」のラスト・結末についてネタバレ
ネリー生還の演出をしようとジョニーは企てました。その途中でレネの自死がわかり、さらにジョニーの裏切りが明確になります。
一方そんなことは知らないジョニー。ジョニーの計画では、ネリーの昔の友人達を集め感動の再会を演出し、生還手続きをとろうというもの。さらに収容所帰りの演出のためにネリーに囚人番号を入れようとしますが、ネリーは拒否し部屋にこもり、レネから受け取った離婚届と拳銃を見つめ考えるのでした。
そのまま計画当日になり、感動の再会を演出したいジョニーですが、ネリーは無言で対応するので困惑し、皆の前でネリーに愛をささやきます。
するとネリーはジョニーにピアノの伴奏をリクエストします。曲はスピーク・ロウです。ネリーの歌声を聴き、ジョニーは動揺します。さらにネリーの腕に囚人番号あることに気づき、ピアノが止まってしまいます。ネリーは歌い続けます。
歌詞の一部を抜粋しますね。
Speak low, darling, speak lowLove is a spark, lost in the dark too soon, too soon
I feel wherever I go that tomorrow is near,
Tomorrow is here and always too soon
Time is so old and love so brief Love is pure gold and time a thief We’re late, darling, we’re late
The curtain descends, everything ends too soon, too soon
I wait, oh darling, I wait Will you speak low to me, speak love to me and soon
“Speak Low” (1943). Music by Kurt Weill, lyrics by Ogden Nash.
歌詞の終盤の「I wait」の部分で、ネリーは歌を止めじっと待ちます。ですがジョニーは動揺していて弾けません。伴奏が始まれば「speak love to me and soon 」と、愛があることを確かめられたのに。
ネリーはそんな彼や異様な雰囲気に言葉がない友人たちを残し、明るい庭へと一人去っていくのでした。
物語はここで終わりです。
映画「あの日のように抱きしめて」の感想
第二次世界大戦後のベルリンを舞台に描かれたこの作品。設定は非常に重苦しく、歴史を考えると目をそむけたくなるような時代背景ですね。
強制収容所で惨く恐ろしい思いをしながらも、唯一の希望としてすがりついていた夫への愛。もし本当はそこに愛がなかったと否定されてしまったら、彼女の精神を支えてきたものがなくなってしまったら。彼女自身の心を守るために、ネリーは現実から目を背けてしまいます。
夫も夫で良心の呵責に悩みます。彼はネリーを愛してはいたのです。なりすましにしたネリーを見て、ネリーはもしかして死んでいないのではと疑い、ネリーに自分の罪を知られたくない、自分の罪に立ち向かえない。その弱さがまたネリーをネリーと気づかないトリックなのでしょうか。
また、友人は非常に献身的にネリーを支えます。ユダヤ人迫害を憎み、パレスチナへの移住を計画。全滅してしまったネリー一族の遺産管理もします。そんな彼女はネリーを守るために自身をも犠牲にします。
甘い言葉のタイトルとは裏腹に非常に考えさせられる、人間の強さ脆さを表した名作だと思います。
正直この日本語タイトルだけなら興味を持たなかったかもしれません。ですが、これは観ないと損をします。
震えながらも歌い始めるネリーの気持ち、恋い焦がれた過去との決別を決めた瞬間、どのような心情だったか想像力をかきたてられます。
まとめ
・戦争に引き裂かれた夫婦愛を描く映画
・人間の脆さ、強さを切なく表現豊かに描いている
・曲と相まって、視聴後も余韻がのこる名作
機会があれば是非本編をみてみてくださいね。
それではここまで読んでくださってありがとうございました
また次回もお楽しみに